注文書ファクタリングとは?〜仕組みと活用法を現役銀行員が解説

監修者:加藤隆二
この記事の監修者
加藤隆二 現役ベテラン銀行員ライター

請求書より前の受注段階でも資金調達できる「注文書ファクタリング」は経営者の武器になる。現役銀行員が、その仕組みから活用法までわかりやすく解説します。

銀行に勤めて30年以上の私が中小企業経営者のみなさんと向き合う中で、胸が痛む瞬間の一つが「技術も信頼もあるのに、先立つ資金がないために大きなチャンス(販売受注、工事請負など)を諦めざるを得なかった」場面に立ち会う時です。

銀行の融資審査はどうしても時間がかかりますので、そうしている間に、ビジネスの好機が逃げてしまうこともあるのです。

そんな時のために(銀行員という立場は度外視しての本音ですが)知っておいていただきたいのが「注文書ファクタリング(POファイナンス)」です。

そこでこの記事では銀行員のわたしが、健全な経営のための選択肢としての「注文書ファクタリング」について解説していきます。

着手金や仕入れ資金が必要な時の救世主〜注文書ファクタリングの基礎知識

端的に言えば、ファクタリングとは「未来の売上をお金に換える」資金調達の方法です。そして一般的なファクタリングより早く、注文書のタイミングで資金調達できるのが「注文書ファクタリング」です。

一般的なファクタリングと注文書ファクタリング・タイミングの違い

一般的なファクタリングと注文書ファクタリングの大きな違いは「資金化のタイミング」です。

通常、ファクタリングは仕事が完了して請求書を発行した後に利用します。つまり債権としての確実性は高い状態と言えます。
いっぽう注文書ファクタリングは、注文書など請求書以前の書類でも買取してもらえるので「仕事をする前(あるいは途中)」に利用することも可能になるのです。

注文書ファクタリング請求書ファクタリング
発生のタイミング受注時点・注文書発行時点納品済み・請求書発行時点
資金化できる時期納品前・着工前(入金の3ヶ月〜6ヶ月前など)入金サイトの1ヶ月〜2ヶ月前

    「仕事が終わったので(納品した、工事が完成した)お支払いをお願いします」の時点よりも、「仕事をお受けします(販売を受注した、工事を請負った)」のほうが当然ながら早いタイミングになります。

    しかしながら、多少のタイムラグはあるとしても仕事を受けた時点からお金は必要になるので、仕事が完了していない段階で資金調達できればそのメリットは大きいことは言うまでもありません。

    その反面、これは注文書ファクタリングを扱うファクタリング会社にも同じことが言えます。なぜなら注文書をファクタリングで買い取って資金を出すわけですから、「本当に納品できるのか?」「途中で契約解除にならないか?」というリスクを注文書ファクタリングを扱う業者は負うことになります。そのため、通常のファクタリングよりも手数料は高めに設定される傾向があるのです。

    とはいえ着手金が必要な建設業や、開発期間が長いIT案件などでは、納品後の資金化では遅すぎるのです。「今、材料を買わなければ仕事が始められない」という状況において、このタイミングで資金が入ることは、まさに救世主と言えるでしょう。

    注文書ファクタリングは法的にも認めらている「将来債権の譲渡」

    「まだ存在しない売上を売るなんて、法的に大丈夫なのか?」と不安に思う方もいるかもしれません。

    結論から言えば、注文書ファクタリングは法的に認められた「将来債権譲渡」という資金調達方法です。

    「将来債権の譲渡」は民法で正当性が明記されている

    2020年4月に施行された改正民法において、将来債権(将来発生する予定、発生するであろう債権のこと)の譲渡が可能であることがより明確化されました。(民法第466条の6)※参照①

    法律の条文として明記されたことで、注文書ファクタリングの法的な正当性が認められたことになります。

    ただし注意すべきなのは「譲渡する債権は特定されていなければならない」という点です。

    「将来なんとなく入ってくるお金」ではなく、具体的に特定できる必要があるので「注文書」というエビデンスが極めて重要になるのです。(注文書については後半で詳しく触れます)

    注文書ファクタリングにおいて将来債権が具体的に特定できる例

    • 発注者〇〇株式会社からの
    • 工期1年(××年1月から12月)のビル建設工事
    • 請負金額は総額1億円
    • 工事代金は①受注時・②着工時・③中間検査時・④完成検査完了後の4回分割払い
    • (発注者)①〜④の工期に応じて注文書を発行する
    • (受注者)①〜④の注文書に沿って作業完了の都度、請求書を発行する
    • (発注者)請求書は当月締めとし、翌月末に支払う
    ※参考①

    第四節 債権の譲渡

    (債権の譲渡性)

    第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

    e-Gov法令検索/民法/第四節 債権の譲渡性/第四百六十六条

    参考: https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_1-Se_4

    銀行融資では対応しきれない「スピード感」

    正直に申し上げて銀行員としてこれを言うのは忸怩たる思いなのですが、現在の銀行融資では「これから受注する案件のための仕入れ資金」を、即日や数日で融資することは極めて困難です。

    銀行の審査は原則として決算書などいわば「結果・過去」を重視します。
    そのため「これから良い仕事が入るんです!」と口頭で言われても、契約書を確認し工事の採算性を計算し保全を図るなど、審査から融資が実行されて資金調達できるまで最低でも2週間から長ければ1ヶ月以上かかってしまいます。

    これは銀行員としての身内びいきなどはなく、銀行(日本政策金融公庫も同様です)の事業資金融資は当座貸越・カードローンなどの一部を除いて、即日あるいは数日で審査完了して資金調達するのはむずかしいものなのです。

    いっぽう、注文書ファクタリングでは、最短即日から数日で資金化が可能です。
    ファクタリング会社や審査内容にもよりますが、このスピード感は、銀行には真似ができません。

    「金利は安いが時間がかかる銀行融資」「手数料は高いが速いファクタリング」のどちらを選ぶべきか?

    経営においては、利益を削ってでもスピードを取らなければならない局面もあります。その判断ができるかどうかが、経営者の手腕と言えるでしょう。

    注文書ファクタリングの「ハードル」〜利用できる業種と審査・注意点まで

    注文書ファクタリングは非常に便利な資金調達手段ですが、通常の請求書買取型のファクタリングに比べて、審査のハードルは上がる傾向にあります。ここでは実際にどのような業種で利用可能か、そして審査の現場では何が見られているのかを、銀行員の視点で解説します。

    確実な発注のエビデンスが求められる

    ここまでも説明してきましたが、請求書より前の段階で可能とは言っても、口頭での発注(口約束)は将来債権とは認められないれないので利用できません。
    先ほど法的根拠の項で触れた通り、注文書ファクタリングを利用するには「債権が特定されている」必要があるからです。

    債権が特定されることを証明できる「エビデンス」として具体的には以下の書類が必須となります。

    確実な発注のエビデンス ※注1

    • 注文書・発注書:案件の金額、納期、支払条件が明記されたもの
    • 基本契約書:継続的な発注と取引条件を定めたもの
    • 見積書:受注内容の詳細がわかるもの

    (※注1)ファクタリング会社によって認められる書類は異なりますので、公式HPなどで確認してください

    我々銀行員もそうですが、金融に関わる人間は目に見える証拠(エビデンス)しか信用しません。

    そのため「長年の付き合いだから注文書は後でいいと言われた」といった商習慣は、当事者間では問題がなく成立したとしても、注文書ファクタリングでは通用しないと考えるべきでしょう。

    上記した口約束レベルでの状態で注文書ファクタリングの利用を検討しているのであれば、取引先に対して交渉し(トーク例「社内規定が変わったので、着工前に必ず注文書をいただきたい」など)書面を揃える契約に変えることが第一歩です。

    注文書ファクタリングに向いている業種・向いていない業種

    注文書ファクタリングに向いている業種、向いていない業種は以下のとおりです。

    <注文書ファクタリングに向いている業種>

    建設業

    工期が長く、材料費や外注費の支払いが先行するなど向いている業種

    IT・ソフトウェア開発業

    システム開発などは数ヶ月に及ぶことが多く、その間のエンジニアの人件費や外注費など経費が長期間先行するため向いている

    製造業

    大量注文が入った際、増加する原材料の仕入れ資金が必用になるといった傾向から向いている

    <注文書ファクタリングが向いていない業種>
    逆に、注文書ファクタリングには向いていない業種としては以下が考えられます。

    飲食店・小売業

    不特定多数の顧客に現金商売(カード払いでも、店舗は売上金を即時に受け取れる)をするビジネスなので向いていない

    サービス業

    理髪店やエステサロンなどサービス業全般も現金商売であり、そもそも売掛金や注文書という概念が希薄なため向いていない

    審査で見られるポイント〜銀行員の視点で考えました

    次に注文書ファクタリング審査で見られるポイントを解説します。とはいってもファクタリングでも銀行融資でも審査の内容などは部外秘の極秘事項です。なぜならそれらを公表するということは審査の基準をバラすことで、悪用される恐れがあるからです。

    しかしながらファクタリング・特に注文書段階で債権を買い取るという特徴を踏まえて注文書ファクタリングで重視しているポイントは、銀行員としての経験から容易に想定できます。

    私がもしファクタリング会社の審査担当だとしたら、以下の点を重点的にチェックします。

    注文書ファクタリング審査で見られるポイント

    発注者・注文者の信用力

    利用者の経営状態より発注者・つまりお金を支払う企業が倒産しないかどうか?が最優先されます。したがって上場企業や公的機関など信用度が高い注文書なら、審査通過率は高まります。

    注文書の信憑性

    架空の注文書で資金を詐取されるのを防ぐため、ファクタリング会社は注文書の信憑性を多角的にチェックします。(*どのようにチェックするのか?などは銀行融資審査と同じで部外秘)

    【注意喚起】一部の悪質な業者について

    一般的なファクタリングよりも早い段階で資金が必要な企業は、往々にして資金繰りに困っている傾向にあります。そうして弱みにつけ込む悪質な業者が少なからず存在するのも残念ながら事実です。

    「注文書一枚で即日現金!」と謳いながら、法外な手数料を要求するような悪質業者や、実態は違法な闇金(ファクタリングと言っておきながら、毎月返済のある融資で、しかも金利は違法に高いなど)などが紛れ込んでいる可能性もあります。

    こういった悪質業者には、どれだけ困っていたとしても絶対に関わらないでください。もっともっと困ることになるのは目に見えています。健全な業者選びこそが、身を守る術です。

    まとめ:資金不足で大きな案件を断らなくて済む、攻めの資金調達手段として

    今の時代では何も無借金経営だけが正義というわけではありません。たとえば大きなチャンスが目の前にあるのに、「資金がないから」「銀行融資を受けられないから」といった理由で指をくわえて見ているのは、経営者としては惜しいことです。

    確かに手数料などのコストはかかりますが、そのコストを払ってでも受注して実績を作り、次なる大きな取引につなげるといった「攻めの姿勢」のための資金調達として、注文書ファクタリングを利用するのは合理的な経営判断だと銀行員の私は考えます。

    この記事が、資金繰りに悩む経営者様の次なる一手へのヒントになれば幸いです。